ステンレス(SUS)の加工硬化が起きる原因
加工硬化とは、金属に力を加えることにより硬さが増す現象です。ステンレス加工のトラブルの要因の1つです。ステンレス鋼の種類によっても加工硬化の有無・程度が変わります。この記事ではステンレスの加工硬化が起こる種類と原因を解説します。
金属加工のワンポイント講座
onepoint
ステンレス鋼(SUS)は、主にマルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系の3種類です。ステンレス鋼は含有物の量と熱処理によって、結晶構造が変化します。結晶構造の違いはそのまま性質の違いになり、多岐にわたる種類が存在し、用途に合わせて最適なステンレス鋼を選択することができます。ステンレス鋼は金属加工で使用頻度の高い金属であるため、ステンレス鋼の種類と特徴を把握しておくことは最適な材質選定をする上でも重要な役割があります。
SUS403、SUS410、SUS440が代表の鋼種です。マルテンサイト系ステンレスは炭素の含有量が多く、主に焼入れと焼戻しをしたものを使用します。高い強度と耐摩耗性、靭性が特徴のステンレス鋼です。不動態皮膜の形成に必要なクロムの含有量は、質量パーセント濃度で11%~18%と他のステンレス鋼よりも少ないため、耐食性は劣ります。
マルテンサイト系ステンレス鋼は全ての素材が磁性を持ちます。高い強度と耐摩耗性から、軸受けやベアリングなどの部品の素材として使われることも多いです。強度はステンレス鋼の中でも特に高く、後述のフェライト系、オーステナイト系ステンレス鋼よりも優れています。
焼入れ焼戻しをしていないマルテンサイト系ステンレス鋼は、脆い状態です。そのため部品や製品の素材として使われているものは、そのほとんどが熱処理をしています。
SUS430、SUS444が代表の鋼種です。フェライト系ステンレス鋼は、クロムに加え、モリブデンや銅などを添加した常に磁性を持つステンレス鋼です。マルテンサイト系よりも成形加工性と耐食性と溶接性に優れていますが、ステンレス鋼の中では強度が低い特徴があります。そのため、強度目的での選択はされにくい材質です。結晶構造が安定しているため、焼入れなどの熱処理で硬化しません。
475℃程度の温度で一定時間保つと、クロム濃度の低い固溶体とクロム濃度の高い固溶体の二相に分かれ、急激に脆化します。脆化を起こした場合は熱処理が必要であるため、この温度域の使用には注意が必要です。
耐食性はマルテンサイト系ステンレス鋼より優れ、オーステナイト系には劣る一方で、ニッケルを含有しないため、オーステナイト系の欠点である応力腐食割れがほとんど発生しません。極低炭素・窒素のSUS444の高純度フェライト系ステンレス鋼は、さらに耐食性が強化された種類で、塩化物環境下での応力腐食割れに強い材質です。
SUS303、SUS304、SUS316が代表の鋼種です。オーステナイト系ステンレス鋼は、延性と靭性に優れたプレス成形や冷間加工に適したグループです。溶接性も良いため、溶接組立て構造にも使用されます。熱処理によって非常に高い硬度になります。ステンレス鋼の中でも耐食性が最も優れています。自動車部品、原子力発電、理化学装置などに使用されています。
基本的に磁性がありませんが、加工により磁性を帯びることがあります。被削性を高めたSUS303はステンレス鋼の切削加工の代表的な素材で、SUS303とSUS304での部品加工の機会は全材質中でも高い割合を占めています。SUS316はSUS304にモリブデンを添加することで、耐食性を強化した材質です。
オーステナイト系ステンレス鋼は、加工した箇所がオーステナイトからマルテンサイトに変化することで加工硬化が起こります。これにより加工箇所が極端に硬くなり加工が困難になることがあります。変化したマルテンサイトを加工誘起マルテンサイトと呼び、これが耐食性を低下させ、磁性を持つ要因になります。ニッケルを含むため、他のステンレス鋼よりも比較的高価な材質です。
600〜900℃の環境下で長時間経過すると、耐食性低下や脆化、塩化物環境での応力腐食割れが発生します。
SUS630、SUS660が代表の鋼種です。析出硬化により、強度を高めたステンレス鋼です。焼入れ・焼戻しをしたマルテンサイト系ステンレス鋼と同レベルの強度があり、高い強度と耐食性が求められるエンジン部品、航空機・ロケットの構造材などに使用されています。原材料が高く、製造が難しいことから、ステンレス鋼の中でも高価です。
耐食性はフェライト系・マルテンサイト系ステンレス鋼よりも優れ、オーステナイト系ステンレス鋼よりも劣ります。強度と耐食性のバランスが優れています。
Point
ステンレス鋼の中でも強度が高いのはマルテンサイト系ステンレス鋼と析出硬化系ステンレス鋼です。マルテンサイト系ステンレス鋼は強度が高い反面、耐食性は他のステンレス鋼に劣ります。析出硬化系ステンレス鋼は耐食性も高く、強度と耐食性のバランスに優れています。オーステナイト系ステンレス鋼が最も耐食性に優れ、ニッケルを含有する分他のステンレス鋼よりも材料費は高めです。
ステンレス加工・ステンレス切削加工のご相談承ります。
メタルスピードはステンレス鋼の切削加工を得意とする金属部品のパーツメーカーです。素材の選定・設計段階からのサポートも承っております。ご相談・お見積り、お気軽にお問い合わせください。
このサイトはアルミ加工やステンレス加工を中心に、金属加工に関する情報をまとめています。金属切削加工の素材選定や加工方法などのご相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。
タグ |
---|
加工硬化とは、金属に力を加えることにより硬さが増す現象です。ステンレス加工のトラブルの要因の1つです。ステンレス鋼の種類によっても加工硬化の有無・程度が変わります。この記事ではステンレスの加工硬化が起こる種類と原因を解説します。
ステンレス・SUSの代表的な特徴は、耐食性が高く錆びにくいところにあります。構造物や建造物の基礎や骨格を支える鉄筋・形銅から、錆びやすい環境での部品まで、使用用途は多岐に渡ります。この記事ではステンレス鋼の特徴を解説します。
アルミニウム合金とステンレス鋼は部品製作の素材として採用率の高い素材です。錆びにくいという点を除いて、両者の特徴には強度や加工性などに大きな違いがあります。この記事では2つの素材の代表的な特徴を紹介します。
無料お見積り2時間以内に返答対応
メールでのご連絡は
info@metal-speed.com まで